【特集】伝統の「岩瀬きゅうり」を守れ ②福島タネセンターのスマート農業

環境制御システムで農場を管理する橋本代表

 6月も半ばを過ぎ、当地方で栽培される夏秋キュウリも出荷時期を迎えている。須賀川市吉美根にあるハウス農場には大型モニターが設置され、株価の変動を表すような折れ線グラフがリアルタイムで更新されている。福島タネセンター(橋本克美代表取締役)が試験農場「エフシードラボ」に導入した環境制御システムで、パソコンから二酸化炭素濃度などを制御し、作業の効率化を図っている。
 同社は「岩瀬きゅうり」のスマート農業化による新しいキュウリ農家の在り方を探る。橋本代表は「環境制御、機械化(ロボット化)、肥料技術の3つを軸とした効率的で魅力あるキュウリ作りを実現したい」と意気込む。
 キュウリ栽培における課題は一般に苗の弱さ、排水対策の必要性、収穫最盛期の8月中旬以降に現れる病弱さなどがあげられる。そのため大量の手間や高い技術が求められ、生産者にとって大きな負担となっている。
 橋本代表は3つの軸によりこれらの課題を解決に近づけ、担い手不足の解消を目指す。「成功すれば、より少ない手間で質の良いキュウリがより多く収穫できることが示せる」と期待を寄せる。

同農場に導入された無人防除機 「オートランナー」

 環境制御はハウスに取り付けたセンサーで温度や湿度、栄養の状態など栽培環境を機械的に把握し、ソフトウェアによる一元管理でカーテンの開閉や二酸化炭素など必要な気体を供給する。
 機械化(ロボット化)は、手始めに無人防除機「オートランナー」を導入した。防除作業は農薬被ばくによる健康被害も懸念されるため嫌厭されがちだが、オートランナーは設定すれば無人で農薬をムラなく散布できる。
 肥料技術は千葉大大学院園芸学研究科の宮本浩邦客員教授らが研究を進める「好熱菌発酵産物」などを肥料として使用する。「好熱菌発酵産物」は好熱菌と呼ばれる微生物群が生産する発酵物で、研究によるとネコブセンチュウなどの病害予防や、植物の生長ホルモン「オーキシン」を輸送するタンパクの発現量が増加し、果実が大きくなるなど様々なメリットが得られる。
 橋本代表はそれらの軸をもとに、一般に行われる摘心栽培ではなく、つる下ろし栽培で育てる。「この方法であれば収穫時期を長期化し、キュウリにも負担が少ないため病気のリスクも軽減できる」と説明した。
 「岩瀬きゅうり」のブランド維持・拡大には農家における「働き方改革」も必要だという。「若手へのアピールとして、4月に定植し11月上旬まで収穫、12月から3月まで趣味や副業に当てる自由な時間をつくれる新しいキュウリ農家モデルを提案したい。エフシードラボの挑戦で、若者に安定した収益を得られるキュウリ栽培の魅力が伝わり、須賀川からこのモデルが広がることを期待している」と話す。
 橋本代表の取り組みは行政や農協とも連携しており、今後さらなる拡張を予定している。「機械は収穫用ロボットも導入し、5年後までに1㌶まで栽培面積を広げていきたい。ただ、このモデルは既存の伝統的な方法を否定するわけではなく、働き方が多様なように、キュウリ栽培の方法も多様になり、自分のライフスタイルにあったものを選べる環境をつくっていきたい」と未来を見据えた。
 伝統のブランド「岩瀬きゅうり」の危機的状況に芽吹いた新たな取り組みに大きな期待が集まっている。